賠償責任保険の解説

1.賠償責任保険の適用

1)保険責任の適用

偶然な事故により、身体障害と財物損壊が発生し、「法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」を補償します。

2)賠償責任保険の適用範囲

①確定した賠償金

②訴訟費用

③協力費用

3)時効

・賠償金が確定後2年

2.保険事故解決対策ー事故発生後留意点

1)民事訴訟による賠償金の確定

・裁判の基礎資料の収集は、当事者の責任となります。

2)示談による賠償金の確定

・裁判外の和解

・示談交渉で重要なことは保険会社と密接な連絡を取りながら妥当な紛争解決を図ることです。

ー約款規定:保険会社の承認を得ないで損害賠償金を承認しないことー未承認の和解の場合、予定通りの保険金が出ない恐れがあります。

・高額賠償金:本来の法律上の損害賠償額として認められる額以上の場合は、認められる額以上の金額は保険の対象になりません。

3)立会い調査の留意点

①旅館・ホテルの盗難事故

・フロントの預かり:基本的には有責を免れないが、貴重品は委託種類・価格の申告が必要です。

・ホテルの室内:鍵が壊れていた等ホテル側に責任がある場合有責と判断されています。

・旅館の場合:ホテルと異なりドアや窓のカギなど不十分な場合旅館の有責が争われます。

・いずれも警察に届け出る必要があります。

②食中毒事故

・保険契約者の提供物か否かの確認が重要です。

・食中毒者の数や関係先(原材料の販売店など)範囲の特定を急ぐ必要があります。

・保健所への届け出義務があります。

③建設現場の事故

・工事内容と下請け関係を請負契約書などで確認し責任関係を明確にします。

④電線、ガス管、水道管など地下埋設物の切断、損壊事故

・所有区分を明確にします。

・利用者の間接損害発生有無を確認します。

⑤旅館・ホテルの火災事故

・火元か類焼かを調査し、自社が火元の場合宿泊者への賠償が生じます。

・宿泊者の避難誘導、建物の構造、防災設備の内容が、責任の有責・責任程度がポイントになります。

・宿泊者・被害者の連絡場所を確認しておくことが大切です。

⑥ガス爆発・火災事故

・ガス配管業者の責任有無を確認します。

・ガス器具メーカー、取り付け業者の責任有無しを確認します。

・建物管理者の責任有無:建物構造、換気、排気に問題はないかを確認します。

・仕様上に問題はないかを確認します。

3.適用する関係法令

①不法行為関係 民法709条~724条 失火責任に関する法律

②債務不履行関係 民法415条~418条 517条

③受託関係 民法657条~666条、商法593条~628条、駐車場法16条

④運送関係 商法569条~592条

4.賠償責任保険の補償内容

賠償責任保険の支払いとなる損害

1.損害賠償金:法律上の損害賠償が発生した場合治療費や修理費用を支払います。

①物の賠償:修理額が時価を下回る場合は修理額が賠償金になります。修理額が時価を上回る場合はその物の時価額が賠償金になります。

②使用不能損害:修理期間中の使用不能に基づく営業損失が対象になります。

③物に対する慰謝料はありません。

④身体障害の損害

・死亡保険金:治療費、葬儀費、逸失利益、慰謝料

・傷害保険金:治療費、通院交通費、看護費、入院雑費、休業損害、慰謝料

・後遺障害保険金:逸失利益、慰謝料

2.損害防止費用:損害の発生または拡大防止のため必要又は有益な費用を支払います。

3.権利行使保全費用:賠償を受ける場合、その権利を保全または行使するために必要な費用

4.緊急措置費用:被害者の応急手当などに要した費用

5.保険会社が解決に要する必要な協力費用

6.訴訟費用:訴訟費用、弁護士報酬等

7.被害者の治療費:治療費の内払い(限度額があります。)

8.初期対応費用:被保険者が緊急的に要した諸費用

9.訴訟対応費用:訴訟解決に要した諸費用

5.賠償責任保険の種類

補償項目 補償内容 特記事項
①施設所有(管理)者賠償責任保険 施設自体の設置・構造上の瑕疵または管理上の過失に起因する事故 占有者が無過失の立証に成功した場合、土地耕作者の所有者が責任を負うことになります。この所有者の責任は無過失責任となります。
・業務遂行中の事故 レストランのボーイの過失行為は、レストラン経営者の使用責任となります。

学校の部活動、課外活動、修学旅行、遠足などにおける生徒の事故は、学校の責任となります。

②昇降機賠償責任保険 EVL又はエスカレーターの搬送設備の管理不備又は瑕疵により生じた賠償事故  エスカレーターに挟まれけがをした等
③請負業者賠償責任保険 請負作業遂行中に生じた偶然な事故 請負作業のために所有・使用または管理している施設の欠陥又は管理上の不備により生じた賠償事故(建築設備業者など請負業者には必要です。
④生産物賠償責任保険

 仕事の終了または放棄の後、仕事の結果に起因する賠償責任

・生産物リスク:工事の瑕疵、作業の欠陥、食品、製品など製造又は販売したものに起因して発生した偶然な事故
食中毒・特定感染症利益補償

営業施設で食中毒が発生した場合(保健所届出)喪失利益および収益減少防止費用を支払います。

特定感染症:一類感染症、二類感染症、三類感染症、指定感染症、新感染症となります。
⑤受託者賠償保険

室内や戸外で管理している間に損壊・紛失・盗取された場合

使用人の盗取、被保険者の供与するロッカーでの紛失。盗取は免責
⑥自動車管理者賠償保険

他人から預かった車、一時的に保管場所外で預かった車

 主に修理工場、ディーラー、駐車場管理者などで一時的に預かった車を滅失・破損・汚損・紛失した場合
⑦人格権侵害 不当な身体拘束による名誉棄損や口頭・文書等で名誉棄損・プライバシー侵害  エレバーターの管理不良で籠内に閉じ込めお客様に精神的苦痛を与えた場合
⑧広告宣伝活動による権利侵害 広告活動による権利侵害  広告に用いた絵が著作権を侵害した等
⑨使用不能損害 不慮の事故で店舗前の道路が通れなくなり営業損害を受けた等  生産物、仕事の結果に起因するものは、その生産物や仕事の目的物自体に損壊が生じていることが必要です。
⑩生産物自体の損害 テレビから出火し家財道具を毀損した場合、出火原因となったテレビ自体の損害を補償するもの  生産物賠償保険に加入している場合:生産物賠償が発生した場合、事故原因生産物以外の財物の滅失・破汚損
⑪被害者治療費用等 事故の被害者に支払った「治療費・葬祭費・見舞金等」を補償します。  費用負担
⑫初期対応費用 事故の初期対応(調査費用・派遣費用・現場の後片付け等)に必要な諸費用を支払います。  緊急に要した費用
⑬訴訟対応費用  被保険者は負担した諸費用  ①被保険者の使用人の残業代、交通費、アルバイト費用等 ②訴訟に必要な文書作成費用 ③事故再現費用(実験費用)等
     

5.免責

重要な免責事項は次の通りである。

(1)施設所有(管理)者賠償責任保険

①給排水管からの蒸気、水、その他内容物の漏出、逸出による財物損壊

財物損壊は免責となります。身体障害は有責です。

但し、漏水担保特約を付保すれば担保されます。

②屋根・扉、窓、通風筒などから入る雨または雪等による財物損壊

屋根瓦のずれ、コンクリートの亀裂、壁面からのしみこみや防水シートの施工不良や老朽化のよる損害、隙間からの吹込みは免責とります。

③施設の修理、改造または取り壊しなどの工事に起因する賠償責任

④航空機、昇降機、自動車の使用または管理に起因する賠償事故は免責となります。

航空保険、昇降機保険、自動車保険で適用されます。

⑤被保険者の占有を離れた商品もしくは飲食物または被保険者の占有を離れた施設外にあるその他の財物に起因する賠償責任

屋外に置かれていた場合は被保険者に占有されていたかどうかが重要になります。

⑥仕事の終了(引き渡し)又は放棄の後に仕事の結果に起因して負担する賠償責任

引き渡しの時期を明確にする必要があります。

(2)請負業者賠償保険

①地盤崩壊免責

・地価工事・基礎工事・掘削工事(ビルの解体工事に伴う振動で近隣の壁が壊れたは有責、)

・土地掘削工事中、被保険者の操作ミスでクレーンが倒れ、他人の建物が倒壊し、土砂崩れで他人の建物倒壊

②被保険者の下請負人またはその使用人の身体障害に起因する賠償損害は免責

(下請負人及び使用人は労災対象のため免責)

③自動車の所有・使用、管理に起因する賠償責任

・貨物の積込み、積み下ろし作業は有責

・工事構内車は有責、自賠自動車付保の場合はこれを優先します。

④請負契約完了後、結果に起因する賠償責任

(3)ビルメンテナンス業の場合

電気設備、冷暖房換気設備、給排水設備は、管理対象物であるが過電流や管理ミスによる損害は不担保となります。受託物賠償保険を付保する必要があります。

 

6.主な事故例

施設賠償事故事例

・自転車で商品配達中に通行人と衝突し、ケガを負わせた。

・従業員の不注意により来客にケガを負わせた。

・施設のガス爆発により入場者が死亡し、近隣の建物・車両等に損害を与えた。

・施設の壁が倒壊し、通行人にケガを負わせた。

請負業者賠償事故

(工事・作業等の遂行に起因する事故 ()

・クレーンが倒れ駐車中の自動車を壊した。

・改修作業中に足場架設用鉄パイプが落下し通行人が負傷した。

・ビル外壁の塗装中にペンキ缶を落とし、通行人の衣服を汚した。

工事・作業等を行うために所有、使用または管理している施設に起因する事故

・資材置場の材木が倒れ、通行人がケガをした。

生産物賠償事故

・レストランのランチで食中毒になった。

・製造または販売した自転車が安全性を欠いていて、利用者がケガをした。

・設置ミスにより看板が落下し、通りかかった自動車を損壊させた。

受託者賠償保険

・ホテルのフロントでお預かりした現金が盗難にあった。

・ゴルフ場で預かったお客の手荷物が盗難にあった。

 

※賠償責任保険は業種により保険会社により賠償保険商品が異なります。自社のリスクにマッチした保険をお選びください。